Amazonがベトナム1兆円市場を今狙い始めた理由

Amazonが2018年、ついにベトナム進出

よく聞かれる質問で「ベトナムにはAmazonてあるんですか?」というのがありまして。今までは「残念ながらAmazonはありません!」と答えていたのですが、今年以降は回答を変えざるを得なくなりそうです。先日、3月14日に行われた、「ベトナムオンラインビジネスフォーラム2018(VOBF)」にAmazonシンガポールからジジェ氏が参加し、ベトナムでのAmazonのビジネス展開を宣言しました。

アマゾン、ベトナム進出へ (日経新聞)

記事にあるようにベトナムにはすでに9000万人以上の人口がいて、2020年にはネット通販市場が1兆円を突破する試算が出ています。20年以降も人口ボーナスが続くため、5年、10年でさらに飛躍的に市場規模が拡大する可能性が非常に高いのです。Amazonにとってみれば、頭打ちしつつある先進国EC市場でコストをかけて小さく成功を勝ち取るよりも将来性のある新興国マーケットで先行投資した方がいいというのが、Amazonのベトナム進出の狙いかと思います。

私もVOBFに参加して、実際にジジェ氏の講演を聞き、ベトナムでSeller向けの教育を行うファム・カイン氏と直接話すことができたので、Amazonのビジネス展開で今わかっている事を紹介します。

ベトナムでの展開は40〜50の事業者から開始

Amazonでショップを持ち、商品を販売するSellerの数は当初は最大でも50社程度に限定して、ビジネススタートとなりそうです。トレーナー担当のカイン氏から話を聞くことができました。Amazonを利用して売上を最大化させる方法をカイン氏がSellerへ教育していくということでAmazonとしてはユーザーの購入体験に重きを置いているのかなと感じました。

ベトナム人もAmazonという単語は聞いたことがありますが、世界のAmazonですらこの国では新参者になることは間違いありません。すでにベトナムにはLAZADAやADAYROIなどの外資・内資両方のECモールが存在しており多くの人が利用しています。

その中にAmazonは飛び込んでいくわけですから、お粗末なユーザー体験をさせてしまったらユーザーは他の選択肢がある以上、定着しないです。そして他のECもAmazonに対抗策を打っていくはずですので、返り討ちにあってしまう可能性こそあります。

ですから、Amazonは2018年ビジネスをかなり慎重に進めていくんじゃないかと推測しています。おそらく、業種はリテールで特に需要がありそうな日用雑貨や健康関連商品といったtoCに注力するでしょう。下手に広げてユーザー体験を無視すると、いくらAmazonでもうまくいかない可能性があります。

私もECのデジタルマーケティングのコンサルティングをしていますが、Amazonの参入は脅威であるとどうじにベトナム人がよりECに注目する好機であると捉えています。ベトナムでデジタルマーケティングを行う企業であれば、間違いなく2018年はECに注目していったほうがいいです。

鍵はモバイル決済

日経新聞のAmazonの記事でも「決済も今後の課題。クレジットカードの普及率は10%程度、銀行口座の保有率も30%以下で、決済は現金が中心だ。アマゾンが参入する場合、信頼できる決済システムの構築が必要になる。」と決済について触れています。記事では書かれていない情報を話すと、ベトナムではクレジットカード決済は普及しないか、普及するのに10年はかかると思います。

なぜならば、ベトナムはまだまだ個人商店の多い国ですから、クレジットカードのユーザーが増えない要因は、クレカを使用できる店舗が少ないからです。クレジットカード大手もベトナムの市場規模がまだまだ小さいため大規模なインフラ整備に協力的ではありませんし、ベトナム人も現金主義です。つまりクレジットカード決済自体がベトナム人になじまないのです。


では、ベトナムの決済事情はどう変わっていくのでしょうか?

私は、中国にそのヒントがあると考えています。中国では近年急速にモバイル決済が普及してきました。アリペイやWeChatペイといったネット系の大手企業が決済インフラを整えてしまいました。QRコードを活用して、スマートフォン1台あれば、成立するモバイル決済は一瞬で中国の決済事情を変えました。今まで現金での支払をしていた消費者はモバイル決済を使い始め、上海や北京などではモバイル決済が使えなければ不便と感じるほど世の中に浸透しています。統計データでは中国人の実に38%がモバイル決済の利用経験ありと回答しています。

今後、中国では都市部以外の地域もモバイル決済が普及していくことでしょう。リープフロッグ現象とよばれる、先進国を非先進国の技術が飛び越える現象が起こっているので個人的に非常に興味深くみています。

前置きが長くなりましたが、結論的にはベトナムも中国と同じようにモバイル決済が主流になる可能性が極めて高いです。
ベトナム人のスマートフォンユーザーはここ4,5年で一気に増加しました。ハノイやホーチミンの都市部の若年層では80%を超えているんじゃないかと思えるほどみなスマートフォンを駆使して生活しています。デジタルマーケティングのトラフィックはすでにモバイルがPCを上回ることが当たり前のように起こります。

モバイル決済が新興国マーケットと相性が良いのが、インフラ整備のコストがほとんどいらないことです。スマートフォンをユーザーが保有し、あとは中央システムとアプリケーションを決済会社が整えれば、準備完了となります。

実際ベトナムでもすでにNAPASと中国のアリペイが提携していたり、地場の決済システムVNPAYが主要銀行のアプリに次々に導入されています。2018年以降はモバイル決済の導入成功例が出はじめてくることでしょう。Amazonとモバイル決済のインパクトで、ベトナムでは消費のデジタルシフトは加速していきそうです。